司法は、国民が自分の権利をちゃんと行使できるようにするために存在しています。国は、司法を担う人材(法律家)を、責任を持って育てる必要があります。
法律家のうち、弁護士は民間人ですが、司法の一部として、国民の権利を実現するため重要な役割を担っており、国が責任を持って育てる必要があります。例えば、刑事事件では、えん罪により無実の人が罰せられないようにしたり、重すぎる刑を言い渡されたりしないように活動します。また、人権侵害から国民を守るため、公益活動をしたり、場合によっては国を相手に訴訟をする際の代理人として活動することもあります。
司法修習生は、将来、司法を担う法律家になるので、国は、責任を持って司法修習生を育てる必要があります。そのために、司法修習生を公務員に準じた地位として扱い、アルバイトの禁止等を含む、修習専念義務が設けられました。
もっとも、司法修習生の生活が苦しくて修習を続けることができなくなってしまっては、司法を担う人材を育てることができません。そのため、国は、司法修習生に対して、司法修習中の生活費と修習の経費をまかなうための給費を支給していました。
このように、給費制は、国民の権利を守り司法を担う法律家を育てるため、司法修習生に修習専念義務を課したかわりに修習を続けられるようにするために必要不可欠なものだったのです。
この「給費制」は、2011年7月に司法修習生になった人たち(現行第65期と呼ばれています。)まで、約65年間ものあいだ続いていましたが、同じ2011年11月に司法修習生になった人たち(新第65期と呼ばれています。)から廃止されました。
「給費制」が廃止された後、代わりに「貸与制」という制度が実施されることになりました。これは修習の約1年間、国家が司法修習生に対して金を貸すという制度です。新第65期司法修習生の87%が貸与制を利用し、約300万円の借金を背負うことになりました。しかし、新第65期司法修習生の半数は、法科大学院時代に平均して約340万円の奨学金を借りており、これらを併せると、半数近くが600万円以上の借金を背負っていることになります。1000万円以上の借金を背負っている人も珍しくありません。このように、スタート時点で多額の借金を背負うことにより、若手の法律家は大きな負担を抱えることになります。
こうした負担や、合格率の低迷、就職難等から、近年は法律家になろうとする人が大幅に減っています。現に、法科大学院への入学に必要とされる適性試験の受験者数は、制度開始時の約15%にまで減っています。有為な人材が法律家を目指さなくなることは、司法を担う人材を育て国民のための司法を実現する上で重大な悪影響として表れているといえます。
このままでは優秀な人材が法律家を目指さなくなり、法律家の質が低下し、国民の権利を守る機能が低下してしまう可能性もあります。
今まで、日弁連や、ビギナーズネットという給費制復活を目指す若手法律家のグループが、給費制のために頑張ってきてくれていました。
しかし、法曹養成フォーラムが詳細な検討をせずに貸与制に賛成してお墨付きを与えたことや、予算の分配の問題が生じたことなどから、給費制の復活は厳しい状況になりました。さらに、今年の1月30日、内閣に設けられた法曹養成制度検討会議は、貸与制を前提とする方向性をとることにしました。
今は給費制の復活はとても難しい状況です。しかし、私たちは給費をもらうことができず、つらい状況の中で修習を受け、この制度はおかしいし、このままにしておけないと感じました。今も司法修習生がつらい状況で修習を受けたり、学生が金銭的理由から法律家になることを諦めたりして、被害は発生し続けています。そして、このような状況が続くことで、司法による国民の権利の実現に支障が生ずることを危惧しています。
こうした思いから、私たちは訴訟によって給費制廃止による被害を訴えるとともに、広く国民に給費制の意義を伝え、給費制復活の運動を盛り上げていこうと決意しました。ぜひともご理解とご支援のほど、よろしくお願いします。