司法試験は、裁判官、検察官、弁護士(以下、この3つをまとめて「法律家」といいます。)になるための試験です。しかし、日本では、この司法試験に合格しても、すぐに法律家になれるわけではなく、ほぼ必ず、司法修習という研修を1年間受けなければなりません。
司法修習生とは、司法試験に合格した後、裁判官、検察官、弁護士になる前に修習を受けている段階の人のことをいいます。毎年、約2000名の人が司法修習生になっていますが、この中で、将来、裁判官や検察官になる人はあわせて約200名おり、残りの約1800名は弁護士になります。
司法修習生は、最高裁に採用され、修習期間中、修習に専念する義務(兼業禁止、海外旅行の制限や政治的なメッセージの発信の禁止などがあります。)を課せられます。このうち、兼業禁止は、司法修習生が勉強に専念するために、夜間や休日といった在庁時間外にアルバイトをしてはいけないことを意味します。司法修習生の生活については、2 司法修習生の生活をご覧下さい。
また、修習を受ける場所も、各都道府県の県庁所在地と釧路、函館、立川の、全国で50ヵ所あり、そのうち1ヵ所を最高裁から指定されます。この場所は、修習がはじまる前に第6希望まで選ぶことができるのですが、全く希望しない土地に行くよう命令されることもあります。
修習は約1年間あります。新第65期の場合、おおまかなスケジュールは次のようなものでした。
2011年5月 |
司法試験受験 |
9月 |
合格発表 |
11月 |
全国各地で修習開始。
はじめの8ヶ月は裁判所、検察庁、弁護士事務所に通う
(8ヶ月間で、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の修習を2ヶ月ずつ受ける。)
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2012年7月 |
修習生が1000人ずつ、A班、B班に分かれる
南関東と関西の修習生は、A班として、埼玉県和光市の司法研修所に集められて修習を受ける。司法研修所の寮は600名弱しか入れないため、入寮の抽選に外れた人が必ず出ることになる。抽選に外れた人は、この2ヶ月間、アパートを借りて住むことになり、寮に入った人に比べて、住居費だけでもさらに20万円程度の費用が必要となる。
ほかの地域の修習生は、B班として、全国各地で修習生ごとにカリキュラムを選択できる選択型修習を受ける。 |
9月 |
A班とB班を交替。
B班が司法研修所で修習を受け、A班は選択型修習を受ける。 |
11月 |
考試(法律家になるための最後の試験) |
12月 |
考試の合格発表 |
上記の「1 司法修習生ってどんな人?」で述べたとおり、修習を受ける場所は釧路から那覇まで全国50ヵ所あり、希望が通るとは限りませんし、引っ越し費用や住居費は自己負担になります。住居費の負担のある場合は、毎月の生活費が平均21万5800円かかります。なお、自宅から通うことができる場合であっても生活費だけで月に約13万8000円程度必要となります(日弁連「新第65期司法修習生に対する生活実態アンケート」)。
また、多くの司法修習生は、この修習中の期間中に、弁護士事務所に就職するための就職活動をします。多くの司法修習生は、就職希望地の近くで修習することを希望するのですが、就職希望地から遠い、希望していない土地に配属されることもあります。その場合は意に反して多額の交通費が必要になります。しかし、その費用を稼ぐためにアルバイトをすることはできません。例えば、東京で就職したいので関東圏での修習を希望したが、九州の修習地に行くよう命じられた場合、毎週末、貯金を崩して、往復3万円を支払い、東京まで就職活動をしに行くことになります。さらに、最近は弁護士数が増加しており、就職状況はとても厳しいため、何度も就職活動のために移動することになります。
分野別実務修習の間には、裁判所、検察庁、弁護士事務所で修習を行います。
修習の時間は普通の公務員と同様にだいたい9時から5時までですが、課題が終わらず8時くらいまで残ることもよくあります。人によっては夜10時まで残ったという人もいます。
また、修習中、実際に事件で使われる書面を作成することもあり、現実に事件処理に携わることもあります。
- 民事裁判修習・刑事裁判修習
- 裁判所の裁判官室内で、修習を受けます。
修習内容は、裁判記録を読んで主張の整理をし、裁判官の出した課題の作成や調査を行い、期日の時は法廷を傍聴します。また、事件に関して裁判官と議論をし、判決書の草稿の作成をすることもあります。
- 検察修習
- 検察官の指導のもと、事件の捜査と起訴の判断などを行います。具体的には、司法修習生が直接被疑者の取調べを行い、被疑者を起訴するかあるいは不起訴にするかを判断し、検察官の決裁を仰ぎ、裁判で使う書面を作成したり、警察が集めた証拠の中から裁判所に提出するものを選別したりします。事件の捜査のために、外部の人とやりとりをすることも多いです。
- 弁護修習
- 司法修習生が一人ずつ別々の弁護士事務所に配属されて修習します。どのような修習になるかは配属先弁護士事務所によって異なりますが、多くの場合は、指導担当の弁護士に付いて、法律相談や被疑者・被告人との接見の立ち会い、裁判期日の出席、書面の作成、事件調査を行います。自分の作った書面がそのまま使われることもあります。
このように、司法修習は、法律家の実務の現場で行われます。国が社会の役に立てる法律家を育てるためには、現に法律家として働く人々のすぐそばで実務に触れ、技術やマインドを習得する必要があるからです。そのために、司法修習生は、公務員に準ずる立場として扱われます。
公務員に準ずる立場にあることから、司法修習生は、修習に専念する義務が課せられ、アルバイトの禁止や、住居や海外旅行の制限が課せられます。こういう身分の制限の代わりに、給費制があったのです。
しかし、給費制が廃止されたことによって司法修習生の生活に色々な不利益が生じています。
準公務員として公務員と同じ権利制限を受けているのに収入を得ることができず、そのような状況下で自分の希望しない土地で修習を受けざるを得ない状況におかれています。
一社会人として扱われながら、収入がないため、通常の社会人と異なる扱いを受けることもあります。例えば、学生と同視されて、認可保育所の優先順位が下がり、子どもを認可保育所に預けることができず、やむなく高額の無認可保育所に預けることになった人もいます。